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2025.02.20

【報告】第3回「小国」論セミナー:「ポスト島ぐるみの戦後沖縄史」

 2025年216日(日)、「小さな社会から構想する平和の可能性」の第3回セミナーが東京大学駒場キャンパスのEAAセミナー室で開催された。
 今回は古波藏契氏(明治学院大学)が、自身の著作『ポスト島ぐるみの沖縄戦後史』(有志舎、2023年)で展開した議論に関して講演を行った。司会は伊達聖伸氏(東京大学)が務めた。

講演者の古波蔵氏

 「島ぐるみ闘争」とは、米軍による沖縄の土地の強制収用に抗するため、1956年に住民が起こした反対闘争である。この運動は、土地を持っている当事者の農民だけでなく、保革の垣根を越えて一斉に米軍に向かっていったことから「島ぐるみ」と呼ばれている。この島ぐるみ闘争と復帰運動が沖縄研究史における二大テーマだが、古波藏氏はこれらの二つの運動の間にある質的変化に着目して「ポスト島ぐるみ」という切り口を取り、復帰運動から現代まで続く統治のあり方に焦点を当てている。
 島ぐるみ闘争の後、アメリカの統治のあり方は大きく変わり、沖縄版経済成長の促進、労働運動の育成などが進められる一方で、1960年頃から復帰運動が本格化してくる。そして沖縄の「復帰」とは軍事支配からの脱却を含んでいたはずだが、1972年の復帰では施政権が日本に返されただけで、軍は取り除かれなかった。にもかかわらず、住民の闘争が続かなかったのはなぜか。このねじれを解明するため、古波藏氏は島ぐるみ闘争の後に出てきた統治政策こそが復帰運動を産み出したのではないかという見立てを提案する。この視点に立つことで、今日まで続く、人びとの内面へのはたらきかけ方、社会のつくり方に関わる統治の影響が見えてくる。
 米軍当局が目指したのは、島ぐるみ闘争を生み出すような社会そのものをつくりかえつつ、復帰運動を「穏健な民族主義運動」の水準にとどめるための心性のあり方だった。古波藏氏はそれを「マイホーム主義」と名づけ、階級意識のない中間層の創出、個人の上昇可能性、失われた伝統的な共同体の穴埋めなど、冷戦期の文脈と近代化論に依拠にしながら説明する。他方で、ムラ社会的なつながりは消滅するわけではなく、親米保守勢力の集票経路にも活用されていく。

司会の伊達氏

 古波藏氏の著作は今日の沖縄の課題を歴史的な視点から理解し、捉えなおすだけでなく、冷戦期から続く日米関係や世界秩序、近代化論の再考を促すものだろう。講演後は同じく沖縄研究を専門とする崎濱紗奈氏(EAA特任助教)からのコメントもあり、議論が深まる有意義な時間となった。

会場の様子

報告:白尾安紗美(EAAリサーチアシスタント)
写真:林子微(EAAリサーチアシスタント)