2024年10月20日(日)13:00から東京大学東洋文化研究所大会議室にて、東アジア藝文書院藝文学研究会UIA(The Ushioda Initiative of Arts、潮田総合学芸知イニシアティヴ)シンポジウム「アジア学のフロンティア」が開かれた。田中有紀氏(東京大学東洋文化研究所)による司会のもとで諸報告が行われた。UIAでは、伝統と現代を架橋する視座に立ち、東アジアに対する総合的な研究を推進している。今回のシンポジウムは範囲を更に南・東南アジアまで広げ、文法学・文献学・人類学の各視点から、宗教・歴史・国家を視野に収めつつ、アジア学のフロンティアにおける成果と課題を共有し、これにより今後の更なる開拓へと繋げることを企図するものである。
川村悠人氏(広島大学人間社会科学研究科)による「詩と言語と神話と:古代中世インド研究のこれまでとこれから」は、紀元前1200年頃に遡るインドのサンスクリット詩をめぐる研究現状を踏まえつつ、ご自身の研究を紹介した。インド古典の日本語翻訳と研究は圧倒的に少ないなか、『マハーバーラタ』などの翻訳と、そこから広がる文法、言語哲学、古代インドの呪詛等の研究が進められてきたという。
柳幹康氏(東京大学東洋文化研究所)は「王権と宗教と歴史:中国禅宗研究を捉え直す」について発表した。中国禅宗の登場・展開の通時的に分析したものは少ないなか、各時代の文献・人物の主張と社会背景を時代ごとに検討してきた柳氏は、最近は女帝武則天の政策と影響に注目し、中国史において禅宗が脚光を浴びるきっかけを復元している。
下條尚志氏(神戸大学大学院国際文化学研究科)による「国家の「余白」から考える近代:東南アジアの戦争と人々」は、人類学の立場からの発表である。20世紀後半のベトナム南部のメコンデルタをフィールドとし、「国家の介入しにくい空間」の生成原理や、近代国家の弱さとローカル秩序の強さなどを検討し、動乱下で人々がとった生き残り策に関する歴史的考察を進めてきた。今後はベトナム−カンボジアに跨がるメコン河流域社会に取りかかるという。
質疑応答では、「国家の余白」と国家の関係性、ローカルな秩序の普遍性、それとアジールとの関係をめぐって活発に議論された。今回はアジア学フロンティアの一角が見えてきており、統合していくのが今後の課題であろう。
報告者:黄霄龍(EAA特任研究員)