2024年8月9日(金)午後、明治思想史研究会の第2回ワークショップがEAAセミナー室で開催された。本研究会は片山潜や堺利彦をはじめとする近代日本社会主義思想・運動の研究に携わっている大田英昭氏(東北師範大学)と、木下尚江らキリスト教者を通じて明治キリスト教史における国家と女性の語り方を研究している鄭玹汀氏(東北師範大学)を迎え、報告者(郭)とともに明治時代(1868-1912)の思想・言論を中心に共同研究を行うものである。
第2回では鄭玹汀氏が「1890年前後の日本の女性論――キリスト教の道徳化問題を中心に」と題する発表を行った。鄭氏は明治知識人における宗教観と女性論に着目し、福沢諭吉の女性論とそのキリスト教・宗教観の関係、小崎弘道『政教新論』における宗教と道徳の問題、田口卯吉の「情交論」、徳富蘇峰と山路愛山のキリスト教観と男女論、そして大西祝の児童・婦人教育論について幅広く考察した。本発表では、明治期における女性の位置づけと男女交際ないし家族制度をめぐる議論がいかにキリスト教に関係していたか、道徳・教育に対する宗教の働きかけがどのように考えられていたかなど、数々の重要な論点が浮かび上がってきた。
その後の討論では、大田氏から1890年という転換期の意義(政治改革から社会改良運動へ)、福沢の子女とキリスト教の関係、組合教会と同志社神学における自由キリスト教的な傾向、女性論と「家」制度および社会改良との関連性、福音主義に近いキリスト教者の女性観といった問題が提起された。報告者は福沢と井上哲次郎の対比、蘇峰の福沢批判にある文明批評的な視座、大西の教育論における「啓蒙」意識といった論点を提示し、蘇峰たちの女性観と「良妻賢母」という女性像との距離について質問した。張子一氏(EAAリサーチ・アシスタント)は慶應義塾のキリスト教化に対する福沢の態度、宗教による教育と宗教道徳による教育の違い、植木枝盛の女性論とその生活様式とのズレについてコメントを述べた。
報告:郭馳洋(EAA特任助教)
写真:張政婷(EAA特任研究員)