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2024.08.06

【報告】ワークショップ「解釈の政治」鈴木亘『声なきものの声を聴く──ランシエールと解放する美学』をめぐって

 2024年7月24日(水)、東京大学駒場キャンパスの東アジア藝文書院セミナー室にて、EAAワークショップ「解釈の政治:鈴木亘『声なきものの声を聴く──ランシエールと解放する美学』をめぐって」が開催された。著者の鈴木亘氏(人文社会系研究科)、コメンテーターの星野太氏(総合文化研究科)、髙山花子氏(EAA特任講師)が登壇し、司会は星野太氏が担当した。

 ワークショップの冒頭では、著者の鈴木氏より、著書の構成および今回のテーマ「解釈の政治」の狙いが紹介された。鈴木氏によれば、本書は2020年に東京大学に提出した博士学位論文に基づいて、より一層精進し改稿したものである。本書の狙いは、フランスの哲学者ランシエールの美学・芸術思想が有する独自性と意義とを浮き彫りにして、そのためにランシエールが他の同時代の思想に対して行った対話ないし議論という観点から彼のテクストを分析することである。また、本ワークショップのタイトル「解釈の政治」については、解釈は共通の風景と能力を変える現実的変革となり、ランシエールが自身の文学論においてこの解釈行為を実践していると述べた。

鈴木亘氏

 コメンテーターの星野氏はまず本書が全体的にランシエール研究としての意義を取り上げた。ランシエールの「美学」と考えられている著述は2000年以後のものだという通常の理解に対して、本書では80年代から90年代の著書も併せて検討され、ランシエールの「美学」をめぐる包括的な研究であるという。そして、本書は現代思想におけるランシエールの特殊性を提示し、ランシエールの美学・芸術思想の総合的かつ内在的な検討を行うとともに、同時代の思潮に占めた独自性を明らかにし、「美の擁護者」としてのランシエール像を示していると述べた。また、ランシエールの「解釈の政治」が従来の「解釈」理解とどこまで連続的であり、どの点で袂を分かつのか、リオタールとの関係をどう考えるかという問いを提起した。

星野太氏

 髙山氏は本書について、ランシエールに関するこれほど包括的な研究書が日本語で読めるのは初めてのことであり、しかもこれまで全面的取り上げられる機会が少なかったランシエールの文学論に関する論述の割合が高いことを指摘した。また、ランシエールに「声(Voix)」というテーマが一貫してあることが示されていて、特に未邦訳の『無言のパロール/無声の言葉――文学の矛盾についての試論』(La parole muette. Essai sur les contradictionsde la littérature, 1998)における「声」の問題系が検討されていることを明らかにした。一方、日本語環境で「声なきものの声を聴く」ことは如何に可能か、また「自由間接話法」の政治性を日本語で実装する方法について問題点をあげた。

髙山花子氏

 質問応答では、ランシエールのテクストや日本語で哲学を読む方法などについて、熱く議論が交わされた。

報告:席子涵(EAAリサーチ・アシスタント)
写真:張政婷(EAA特任研究員)