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2024.07.05

【報告】ヤナ・ロシュカ氏講演会「Sinology and Chinese Studies in Europe」

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202473日、ヤナ・ロシュカさんに「ヨーロッパにおける漢学と中国研究」と題する講演をお願いしました。ロシュカさんはスロベニア最初の「漢学者」として、リュブリャナ大学にアジア研究学部を創設し、現在はヨーロッパの中国哲学を代表する学者として世界を飛び回っています。日ごろ東アジアに身を置き、中国の言語や文化から甚大な影響を受けた言語文化に浸かって生活しているわたしたちから見る中国と、ヨーロッパの内部から、しかも旧ユーゴスラビアから独立したスロベニアというユニークなトポスから見る中国とは自ずと異なっているにちがいありませんし、そのことは今日わたしたちが中国の智慧に関心を持つことの意味を改めて認識するためにとても有意義な視点を提供してくれるはずです。
そこで、この講演会は中国語を学び始めてまだ日が浅い学部生の皆さんを主な対象として企画しました。ロシュカさんもこちらの意図をよく汲んでくださり、周到な準備をして臨んでくれました。

「漢学(者)」ということばはやや馴染みがないというか、古いことばのように思えます。Sinologyが中国語で「(海外/国際)漢学」などと翻訳されることに範を取ってこのように称してみましたが、日本ではかつて「支那学」などと呼ばれていた中国古典学に相当します。同時代中国の政治・経済・社会・思想などの諸事象に対する研究が中国研究と括られるのに対し、漢学はそれらとは異なった地平へと開かれています。この概念をどのように把握し理解するのかは、究極的には日本における中国認識が少なくとも近代以降に帯びてきた歴史的負荷をどのように理解するかに関わってきます。このことは言い換えれば、わたしたちが今日から未来に向かって、「中国」なる対象に関する想像の幅と奥行きをいかに広げられるかに関わっています。こうした点からも、特にお若い学生さんたちとこの問いを共有することはとても尊いことだとわたしは思っています。
とてもうれしかったのは、ロシュカさんがcross-cultural/trans-culturalの概念を借りながら漢学の学問的意義について語ってくれたことに対して、実際に学生さんの側からしっかりとそれを受けとめる反応が上がったことでした。いくつも飛び出してきた皆さんからの質問やレスポンスのひとつひとつがすばらしいものでしたし、中国哲学とか「漢学」という狭い学問領域を超えて、わたしたちに共通の未来に対する明るい希望が確かに存在していることを感じることができました。
当日は梅雨の合間の猛暑に見舞われた一日でしたが、教室は穏やかでかつ熱気にあふれた雰囲気に包まれており、とても楽しいひとときを過ごすことができました。

 

石井剛(EAA院長/総合文化研究科)