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2024.06.20

【報告】2024 Sセメスター 第9回学術フロンティア講義

 

2024年614日(金)、EAA主催の学術フロンティア講義「30年後の世界へ——ポスト2050を希望に変える」第9回が駒場キャンパス18号館ホールで行われた。中島隆博氏 (東京大学)が 「人間復興と精神復興」というテーマで講義を行った。

1923年に関東大震災が起きた後、「精神復興」が唱えられ、神儒習合の「国祭」として格上げされた儒道大会が開催された。しかし、儒道大会は国家のイデオロギーや満州の「国際的」認知を宣伝するものであり、「精神復興」とは、実は神道と日本の近代儒教が融合し作り上げた「国体」を擁護し、「忠良なる帝国の臣民」を育てることであるとされている。

こうした政治的イデオロギーを宣揚する「精神復興」を検討しつつ、中島氏は「人間復興」の重要性を指摘した。経済学者の福田徳三(18741930)が最初に提唱した「人間復興」とは、生存とそれを支える生活、営業、および労働機会、すなわち営生を強調する概念である。道路や建物などの物的復興は営生を維持する道具にすぎず、路地が消え、町がマッチ箱や高層ビルが並ぶ無機質な存在になってはならない。世紀を越え、阪神・淡路大震災と東日本大震災の後、「人間復興」は依然として遂げていないようである。今日では、生きがいと「Human Co-becoming」(他者とともに人間的になりゆくもの)を重視する「人間復興」がさらに重要であると、中島氏は指摘している。

報告・写真:銭俊華(EAAリサーチ・アシスタント)

 

リアクション・ペーパーからの抜粋
(1)今回の講義で一番印象に残ったのは、「人間復興とは人を直す・元に戻すのではなく、社会想像・社会概念を変えることである」という考えです。特に精神病を考えると確かその増加の原因が社会のあり方にあるとも言えるし、精神病の治療の行き先は社会が作り上げてきた「普通」の概念であり、必ずしも客観的な人のあるべき姿ではない。 しかし、もう一つの考え方としては、精神病の認識への社会の良い影響もあるのではないかと思いました。最近精神病が増えているのはストレスの増加や生活習慣の変化とも関係があるのかもしれませんが、精神疾患が前よりも病気として認識されて、治療・記録されるようになったからでもある。このこと自体も人間復興なのではないかと思います。(教養学部・3年)

(2)社会が乱れているときというのは、人の心が乱れている時なのだということを改めて実感しました。その中で自分は、南海トラフ地震をはじめとする今後起きるとされている災害の後に注意しなければならないと考えました。そのような災害の後は、社会が破壊され、同時に人の心も壊れてしまっています。しかし、一般的に無宗教とされる日本においては、多くの人にとって拠り所とするべき宗教や教えが存在しません。なので、怪しい宗教や考え方が蔓延しかねません。社会がある程度安定している今のうちに、自分の信念を定めておかなければならないと考えました。(教養学部・2年)