2024年2月19日(月)、飯田橋文学会、および東京大学の研究機関(UTCP、HMC、EAA)の共同主催の下、「〈現代作家アーカイブ〉文学インタビュー」の第28回が東京大学駒場キャンパスにて行われた。今回は小説家の中沢けい氏をゲストにお迎えし、聞き手は渡邊英理氏(大阪大学)が務めた。2時間以上に渡ったインタビューでは、『女ともだち』(1981)、『楽隊のうさぎ』(2000)、および『麹町二婆二娘孫一人』(2014)の三作に加え、中沢氏のデビュー作『海を感じる時』を中心に話が展開された。
今回を貫く主題としては、女性として日本(語)文学を書くという大きなテーマが挙げられる。とりわけ、戦後日本の時代的風潮の変遷、および中沢氏ご自身の直面してきた社会的状況について詳しく触れられた。中沢氏は、高校一年生のときにちょっとした偶然で執筆活動に取り組み始め、18歳という若さで群像新人文学賞の受賞でデビューを果たしたが、当初から「類型化」という問題に遭ったと語る。そこから始まった長い道のりをまとめるとすると、「女流作家から女性作家へ」という表現が浮かび上がる。現在は「女流」という言葉は死語となっているとはいえ、80年代までは女性作家が「女流作家」と呼ばれていたことから、当時の男性中心の小説家世界の現実が伝わるだろう。
以上のような状況の中で、「主流」によって排除される「傍流」的な存在をあえて拾い上げ、そのための隙間(時間と場所)を作っていく努力が、中沢氏の小説の中でも常に重大なテーマの一つとして現れる。もっとも、この努力は性別問題の扱い方に止まるのではなく、より根本的な言葉の問題、つまり日本語そのものとの向き合い方とも結びつけられる。作り上げた言語を別の言語にし、開かれた日本文学の可能性を追求する。この姿勢はまた、日本文学を日本国籍から解放し、「日本語での文学」として捉え直そうとする渡邊氏の仕事とも響きあう部分が大きく、今後も共通の課題だと思われる。
朗読の時間では、渡邊氏のリクエストによる『女ともだち』からの一幕が選ばれ、銀杏並木を背景とする美しいシーンに来場客が魅せられた。最後にフロアーからは、小説における音の表象、SNSの使い方、更にデビュー当時の女性作家「先輩たち」への思いなどについて、様々な質問が寄せられた。中沢氏の長年の執筆活動を回顧すると同時に、その気さくで温かい人柄に触れるという、極めて貴重な時間となった。
後日、本インタビューの映像は飯田橋文学会のウェブサイトで公開される予定である。当日駒場へ足を運べなかった方にも、もう一度中沢氏の言葉を味わいたい方にも、ぜひご覧いただきたい。
報告:ニコロヴァ・ヴィクトリヤ(EAAリサーチアシスタント)
写真:李佳(EAAリサーチアシスタント)