2024年2月5日(月)午後、大雪が降るなか、藍弘岳氏講演会「グローバルヒストリー、帝国日本の知識と台湾――鄭成功、李仙得、竹越与三郎」が駒場キャンパス101号館11号室で行われた。石井剛氏(EAA院長)が司会を務め、黒住真氏(東京大学名誉教授)も出席した。
(藍弘岳氏)
中央研究院歴史語言研究所の副研究員である藍氏の専門は江戸時代の思想史であり、台湾史にも興味を示している。中国語圏ではよく知られている鄭成功(1624-1662)は大清帝国に海賊とされ、清末になって遺臣として認められたこともあるが、1661年に台湾にいたオランダ人を駆逐し、台湾を解放した「中華民族の英雄」として見なされている。しかし、『国戦爺合戦』や『台湾鄭氏紀事』などの文献によれば、当時の台湾は日本の属島とされ、日本人の母をもつ鄭もまた大和魂を受け継いでいるとされている。
李仙得(C. ルジャンドル, 1830-1899)はフランス生まれのアメリカの軍人・外交官であり、台湾では近年『斯卡羅 Seqalu 』というテレビドラマでよく知られるようになった。藍氏によれば、国際法に詳しいルジャンドルは「Is Aboriginal Formosa a part of Chinese Empire?」という論文のなかで、スイス人の法学者J. ブランシュリの『Das moderne Völkerrecht der zivilisierten Staaten』を引用したが、そのフランス語訳は『Le Droit International Codifié』だという。19世紀の台湾は「無人の境」あるいは「無法の地」とは言い難いが、台湾を「台湾生蕃の地」または「空虚無人の境」としたルジャンドルは、日本の台湾統治を合理化した国際法を「人の国を奪う道具」として批判した。もともと日本に属していた台湾に、日本は「保民義舉」という理由で出兵したが、民とは天下の民か、日本(琉球)の民かが問われるのだ。
(左:藍弘岳氏 右:黒住真氏)
質疑では、保民義舉と天下思想、近代文明と江戸思想、隘勇線と海洋視点の重要性について活発な議論が行われた。なお、時間の関係で竹越与三郎については発表では言及されなかった。
報告:張政遠(東京大学総合文化研究科)
写真:石井剛(東京大学総合文化研究科・EAA院長)