2024年1月15日(月)17時より、東京大学駒場キャンパス18号館コラボレーションルーム2にて、トニ・ヒルデブラント氏公開セミナー「『人間の声(La voce umana)』を読む――グラマトロジーの批判」が開かれた。
現在、ベルン大学に所属するヒルデブラント氏は、パゾリーニ研究に端を発して、ジョルジョ・アガンベンと知己を得た経緯をもち、今回、まだ邦訳が出ていないアガンベンの新刊『人間の声』(2023)において、どのようにデリダのグラマトロジー批判が行われ、呼格をめぐる議論が立ち上げられているのかが、氏の最近の関心とともに紹介された。呼格(vocative)とは、呼びかけの際の名詞や形容詞の格のことで、格変化のない言語にも存在するものである。國分功一郎氏(総合文化研究科)の司会のもと、ライナー・マリア・リルケの『ドゥイノの悲歌』における” O und die Nacht”という一節への着目をはじめ、人間の声をめぐる議論がどのように拡張されているのか、ある特定の母語による言語活動をめぐる議論にも立ち返りながら、若手研究者を中心に活発な意見交換が行われた。今回の講義のタイトルは「エコロジカルな呼格(The Ecological Vocative)」と題されており、最後に、華道家の片桐功敦が東日本大震災の後に福島に花々を生けた作品を紹介しながら、人間ではないもののうちでも植物の声についてもアガンベンの議論を拡張し、今日の環境問題や人間の危機についての視座が示されていたことが印象的だった。
報告・写真:髙山花子(EAA特任助教)
【報告】Japanese Philosophy Network 第3回研究会
悦びの記#22(2024年1月29日)