2023年7月28日(金)16時より、101号館11号室にて、ワークショップ 「「奇妙でありながらガラスのように透んで明らかな…」――ピエール・ルジャンドルの仕事について」が開かれた。今夏に刊行された雑誌『思想』のピエール・ルジャンドル追悼特集号を踏まえて、ルジャンドルの思想を振り返る企画である。
森元庸介氏(東京大学)の司会のもと、まず西谷修氏(立教大学名誉教授)から、今回の特集号が編まれた背景が、日本でのルジャンドルの「トランスミッション(transmission, 伝承)」とともに仔細に説明された。たとえば今回訳出された「法の学匠たち」(初出1983年)にルソン・シリーズのエッセンスが凝縮されていることや、主観がどう構成されるのかを知るために精神分析と格闘したルジャンドルの軌跡が噛み砕かれ、こうして特集が実現したことじたいが、文字どおり値がつかずモノとして漂い続ける伝承の結果と解釈学の体現になっていると述べられた。つづいて法制史を専門とする嘉戸一将氏(龍谷大学)から、中世の解釈者革命とエンブレムとしての教皇にかんする議論が整理され、法の遵守には信仰が関わり、法学の中心には儀礼があることをめぐって、実証化、科学化とは別のかたちでの今日の法解釈の問題の見通しが提示された。最後に、地方分権化にかんする論考を寄稿した平田周氏(南山大学)から、社会学者ともされるアンリ・ルフェーヴルや都市論を専門とする立場から、今回の特集によって哲学と非哲学の関係をどう論じるのかが課題として示されたように、ようやくルジャンドルを共通財産として、共通の地平として論じる段階に入ったのではないかと述べられた。その後、フロアに議論が開かれ、特集号にコラム執筆や翻訳で参加した若手から、自由にさまざまな発言があった。西谷氏はたとえば性転換したあとに子どもからママと呼ばれる権利を求める事例を西洋の規範システムが対応できないものとして紹介していたが、ドグマ人類学の議論の射程はきわめて広いようにおもわれた。海外からのオンライン参加者を含め、寄稿者のほとんどすべてが揃っており、学部生から一般人まで20人以上が集まり、人間の生そのものを根源的に思考する言葉を希求する営為への強い関心がうかがわれた。
報告:髙山花子(EAA特任助教)