2023年6月30日(金)、学術フロンティア講義「30年後の世界へ——空気はいかに価値化されるべきか」の第11回では、東京大学理事・同未来ビジョン研究センター教授の石井菜穂子氏が「グローバル・コモンズを守り育むために」と題して講義を行った。
石井氏は、グローバル・コモンズを「地球環境」と定義した上で、20世紀後半に地球が「人新世」に突入して以来、人類の活動が地球のコモンズに多大な負担を押し付けたこと(「グレート・アクセラレーション」)を紹介し、我々はその対処に迫られていることを指摘した。近年では、プラネタリー・バウンダリー理論が考案され、人間の活動が地球に及ぼす影響を科学的に測定することが試みられたが、石井氏は、そこに安全(safe)や公正(just)などの価値を重ねることで、「安全かつ公正な地球システム境界(SJ-ESB)」を作り出すことが可能になると主張した。
グローバル・コモンズを保護するために、例えばSDGsなどの指標も制定されてきたが、石井氏はこれらの問題は主権国家内部で完結するものではないゆえ、個別に処理するのではなく、「Global Commons Stewardship Framework」といったグローバル的な枠組みによって対処すべきだと強調した。近年では、GFANZ、ISSB、FMCなど非国家主体の実践も活発になってきたが、今後は「水」や「空気」など従来リージョナルな問題として見られがちな資源を、新たにグローバルな視点から価値付け直すことが一層重要となってくるだろう。
報告者:邱政芃(EAAリサーチ・アシスタント)
リアクション・ペーパーからの抜粋
(1)(前略)確かに、金銭的価値を付与すれば、人々の環境の価値への意識は強くなり、環境保全への意識も高まるだろう。しかし、空気は生きる上で必ず必要とするものである。金銭的な価格をつけることによって、お金がある人々が上質な空気を享受でき、貧しいものはできなくなる危険性が孕んでいると感じる。また、一度価格が付けられたものは、簡単には価格を取ることができないのではないか。金銭的価値の付与は、不可逆的な操作であると感じるので、なおさら慎重になる必要性が感じられる。空気は、個人の意思に関係なく人の生命の維持に欠かせない物質である。経済力に応じて、綺麗な空気を得られる量に優劣が生まれてしまわないように、慎重になる必要があると感じる。(教養学部3年)(2)今回の講義を踏まえ、「非国家主体が、グローバル・コモンズを巡る課題に対し適切な影響力を持つには、組織面でどのようなことを意識すべきか」という問いを持った。アプローチとして「活動をオープンにする」「人材や資金面で規模を広げる」という2点が考えられると思う。
「活動をオープンにする」に関しては、積極的な広報により組織の存在意義を知らしめたり、政策提案の過程を公開し活動を透明化したりすることが考えられる。活動を広く市民に周知することで、組織への信頼が高まり、国際社会での発言力も向上するといえる。
「人材や資金面で規模を広げる」に関しては、国籍や専門分野などにおいて人材に多様性をもたせ、活動資金を充実させることが考えられる。人材の多様性は組織の決定の妥当性につながるほか、各界にネットワークを広げることにも寄与すると思われる。活動資金の充実は、活動範囲の拡大・組織の社会的影響力の拡大につながるといえる。(教養学部2年)
――山内久明先生への手紙――(工藤庸子)