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2023.06.06

【報告】2023 Sセメスター 第7回学術フロンティア講義

2023年5月29日(月)、2023年セメスター学術フロンティア講義 「30年後の世界へ——空気はいかに価値化されるべきか」の第7回では、山本 浩貴氏(金沢美術工芸大学)が「現代アートにおける空気の可視化」と題して講義を行った。

山本氏は具体的な作品を取り上げながら、現代アートによっていかに見えない存在を可視化できるのかを紹介した。講座を通じて非常に興味深く感じたのは、物事の存在する「形」を変換させることで新たなモノを生成するという現代アートの創造力であった。芸術創作は、形態や色彩を有する物質を媒介して、空気をはじめとする目に見えない存在、または、感知しにくくなった存在を感知可能な状態に変化させることができる。例えば、ある作品は地球温暖化で聞くことが難しくなりつつある流氷の音を再現している上村洋一Hyperthermia温熱療法》2019)。また、ある作品は、空気と同じように目に見えない社会現実を映像媒体によって可視化し、ナショナリズムと排外主義が支配する社会的・政治的「空気」を私たちに意識させる「形」となっている(小泉明郎《夢の儀礼─帝国は今日も歌う》2017)。そして、社会現実に働きかけながら新たな関係性を生み出すソーシャリー・エンゲイジド・アート(Socially Engaged Artの出現も、現代アートの様々な可能性を示している。山本氏は、より複雑になっている現代アートを価値づける際に、新たな価値概念が要求されることを示した。 

 想像力を働かせ、新たな可能性と関係性を作り出していく現代アートは、人新世の時代における様々な課題と向き合う私たちを、人間だけでなく自然を含むあらゆる「生」のより豊かな「形」の想像と探究へと誘っている。

 

報告者:李佳(EAAリサーチ・アシスタント)

リアクション・ペーパーからの抜粋
(1)現代美術には物理的に見えないもの、聞こえないものを作品を通して可視化する。そして、社会的、政治的に、見えなくさせられているもの、聞こえなくさせられているものを、アートに昇華することで、社会へ可視化する効果があるかと考えました。空気のような明確な境界がなく、空間を形成していく特性を持つものは、現代美術の表現材料としてとても適切なものだと思いました。しかし、同じ空気を材料としても、作品を作るアーティスト、そして作品を見る人によって作品の価値が非常に多様に存在しうることが現代美術の面白いところだなと思いました。現代美術にとって、アートの境界を考えることが重要な要素の一つだと考えらていられますが、空気のような境界のない材料を使っている以上、どこまでがアートかを考えること自体が無意味なのかなと思ってしまいました。作品に関わった人それぞれがアートだと思ったものがアートなのだなと思いました。(教養学部・2年)

(2)現代アートの範囲が、それが展示されている空間やそこにいる人々の反応なども作品の範囲内であるという話が印象的だった。このように考えると、アート作品の範囲に限界は無いのではないか思われる。そして、空間だけでなく、時間もアートの範囲を広げるのではないかと考えた。この講義の名前に、「30年後の世界へ」とあるが、アートは現代の人の認識を変えるだけでなく、未来に向けて作ることもできるのではないかと思った。(教養学部・3年)