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2023.05.19

【報告】ドキュメンタリー映画『Cyber Everything』上映会&座談会~サイバー空間における人間の条件とは?

2023年5月10日にSHIBUYA QWS スクランブルホールにて、シモン・ドータン氏(ニューヨーク大学)とネタヤ・アンバー氏(ニューヨーク大学)が監督・制作したドキュメンタリー映画『Cyber Everything』(2022)の上映会が開かれた。その後、両氏に加え、Markus Gabriel氏(ボン大学教授)、日比野克彦氏(東京藝術大学学長)、藤井輝夫氏(東京大学総長)、中島隆博氏(東京大学東洋文化研究所所長、EAA学術顧問)が「芸術とその社会的・哲学的意義」という題で座談会を行った。佐藤麻貴氏(The New Instituteフェロー)が通訳を担当した。

近年、社会的現象としても、芸術・美学の研究領域においても、cyberは最も注目を集めている概念や課題の一つである。元来、「コンピューター・ネットワークに関わる」を意味するこの言葉が、日本語においても中国語においても音訳の形で「サイバー」「賽博」と表記されているように、その内実や影響力はすでに既存の語彙には収りきらない。

ドータン氏やアンバー氏が述べたように、本作品は、コンピューターやインターネットによって処理されたいわばサイバー化された(cybered)対象ではなく、メカニズムないし一種の組織原理としての「サイバー」が我々の生活・社会の諸方面に浸透していることを解明しようとしている。またその解明は、未来を予測するためではなく、むしろ過去へと繋ぐことを目標とし、それによって人類が未来についてよりよく理解できるよう構想されている。本作品の一つの焦点は、人類と情報通信技術との歴史的関係にある。かつて印刷技術によって激しく変えられたわれわれの生活様式は、インターネットの出現によってさらに根源的な次元――世界や現実の捉え方、人間の実存的条件に関わるそれ――で転覆されたという。

続く座談会において、司会者の中島氏は、今日では人類はすでに科学の進歩を止めることができず、それを前提として進んでいかなければならないと指摘した。そこで、登壇者たちの専門知識の多様な方向に応じて、人間と機械との関係、「芸術」や「美」の再定義、平和を築くための新たな契機、実践生活における関連法令の必要性、といった重要な問題が提起された。穏やかな、しかし濃密な議論を通じて、サイバーによってもたらされた問題や危機のみならず、未曾有の機会の存在も明らかにされた。ここでの機会とは、なによりもまず、人間を個々人の視野や経験の限界から解放し、データベースの力を借りて世界の多様性を見渡るという可能性である。われわれは、サイバーを用いて新たな芸術をも創出し、地域や人種、宗教などの壁を乗り越え、別種の調和を構築しうるという希望が見えてきた。

報告者:丁乙(EAA特任研究員)