2023年4月25日(火)、「新しい啓蒙のための連携研究機構」の創設を目指した連続講演会の第一回が、「中国における技術への問い その後」と題して開催された。登壇者のユク・ホイ氏(香港城市大学教授/東京カレッジ招聘教授)は、自著である『中国における技術への問い』(2016年、邦訳2022年)を踏まえながら講演を行い、その後は中島隆博氏との対談や来場者の質疑応答が行われた。
左から、ユク・ホイ氏(香港城市大学教授/東京カレッジ招聘教授)、中島隆博氏(東京大学東洋文化研究所所長)
ユク氏は、これまで西洋的な伝統の観点からのみ定められてきた「技術」という概念を中国の事例を通じて捉え直し、ローカリティを重視する宇宙技芸(Cosmotechnics)を、人新世の課題を乗り越えるためのオルタナティブとして提案した。アジアを含む非欧米社会が近代化の波に埋もれてきた要因の一つは、「技術」への理解を掴み損なったからではないかとも指摘した。「技術」を観測点とする認識の再構築のため、具体的な研究・実践の課題に取り組むことが欠かせない。それに対して中島氏は、中国における「技術への問い」は、ハイデガー的な「技術への問い」とも異なる応答を示すだけではなく、「問い方」そのものを刷新することが重要であるなどとの提案を行なった。
左から、納富信留氏(東京大学人文社会系研究科教授)、田中有紀氏(東洋文化研究所准教授)、藤幡正樹氏(東京藝術大学名誉教授)
今回の講演では、「technological planetarization」や「epistemological diplomacy」などといった、現代社会の情勢を考える上で鍵となる概念や視点が次々に提示された。こうした知識の生成は、「新しい啓蒙のための連携研究機構」の創設にどのように貢献できるかが、今後の課題となる。次弾5月8日に開催予定のマルクス・ガブリエル氏による講演会に続き、6月以降には、東京大学の構成員を中心に座談会を継続的に開催する予定である。今後も、試行錯誤や軌道調整を重ねながら、大学の在り方を丁寧に考えていきたい。
報告者:汪牧耘(EAA特任研究員)