小説、エッセイ、詩歌乃至批評において独自の業績を残した廃名(馮文炳、1901-1967)は、中国近代文学史における特別な存在である。氏が北京大学授業のために著した講義案である『談新詩』は、新詩の歴史を研究する際に欠かせない一冊である。中国中央民族大学の冷霜先生は今回の講演で、『談新詩』の内容紹介から始め、廃名の詩歌思想の長所と短所について詳しく検討し、そのコンテキストを紹介し、同書から見られる廃名詩歌思想の「二重性」を論じた。
『談新詩』というと、新詩は「詩の内容であり、その文字は散文の文字である」という、廃名が同書において下した有名な論断が思い出されるだろう。それは、詩歌が感情に基づいて創作されるべきであり、新鮮で充実で作者の独自性が見出せるようにすべきだということである。しかし、「詩の内容」と「散文の文字」を提唱することは、氏が全ての形式に反対することを意味するわけではない。むしろ、後に廃名は「詩の書き方」が必要であると提唱し、これにより最初の詩感が適切に表現されるようにすることで、作品を純粋な詩歌にさせるべきだと考える。
廃名の主な対話相手は、一方は胡適の白話詩論、他方は新月派の韻律詩論である。一方で、言語形式により新旧を区別する胡適の方法に反対するために、廃名は「詩の内容」で新旧を見分けることを唱えている。同時に、廃名は胡適の歴史主義に基づいた新詩論にも同意せず、新旧詩は迭代の関係ではないと考え、「新詩もただの一種の詩である」と述べている。他方、「散文の文字」という主張は、新月派の詩論に対するものであると考えられる。廃名は、韻律化された新詩が「詩の内容」の伝達を妨げると考え、新詩は自由体の形式を使用すべきであると主張している。ただし、このような対話の中で、廃名には相手の見解を狭めたり誤読したりする傾向がある。さらに、氏の詩論自体も、相手の「形式」に関する観念に制約されていることに注意する必要がある。これは、廃名詩論の欠点と言えると冷霜先生が指摘している。
廃名の詩論に最も大きな影響を与えたのは、師である周作人だと言えるだろう。『談新詩』では、「詩の内容」の強調があり、周作人の言志主義と一致している。また、『中国新文学の源流』などで左翼文学と八股に関連性を付けた周作人の論述は、廃名に認識の視点を与え、中国の古典的な詩文学を再認識させ、「文生情情生文」ということを旧詩の本質として把握することを促した。それに基づいて、廃名は独自の詩学的思考を発展させたと冷霜先生は考える。
冷霜先生は、『談新詩』の多方面を分析した結果、詩論における観念構造及び新旧の詩の関係に対する廃名の考えには「二重性」があることを指摘した。概念構造上では、一方で詩の内部を論じる際には韻律化に反対する傾向があり、他方で詩を散文と区別しようとする際には「詩の書き方」を唱えている。また、詩の新旧に対する理解においても、廃名は一方で「五四」啓蒙主義の立場を取り、古典詩歌に対して全体的な批判的態度を持ち、他方でまた古典文学を主な認識の資源としている。
報告:黄嘉慶(東京大学大学院人文社会系研究科博士課程)