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2023.04.26

【報告】History and Theory of Common Spaces: The Second Symposium of the Room and Space Research Group

202339日(木)15:00-18:00、東京大学東洋文化研究所第二会議室(関係者のみ、一般参加の方はオンライン)において「コモンスペースをめぐる理論と歴史:第2回『部屋と空間プロジェクト』研究会シンポジウム」が開かれた。

コモンスペースとは、国や地方自治体が管理するパブリックスペースとは異なり、そこに住む、もしくは働く人々によって管理されるスペースを指す。「部屋と空間プロジェクト」研究会ではこれまで、コモンスペースに関する様々な歴史や理論を取り上げ、建築家や一般の人々が、どのように空間やその設計に、彼らの希望を託したのかについて考察してきた。本シンポジウムでは、古今東西を問わず、様々な人々によるコモンスペース構築の試みを、それぞれの専門から考察し、人々が社会の中でどのような空間を構想し、その空間に愛着を抱くに至るまで、どのようなプロセスを経たのかについて議論した。

文化地理学を専門するジェームズ・サーギル氏(東京大学)は“Folklore as Common Space”と題し、民間伝承と社会空間の形成について論じた。民間伝承が広がり、進化し、様々なパフォーマンスとして展開する過程には、「開かれた」システムと「閉じた」システムがあり、それによって人々は共に社会空間を構築できると指摘した。

ジェームズ・サーギル氏

台湾の住宅史を研究する白佐立氏(東京大学)は“Common Space for Socializing Created by the Residents: The Vicissitudes of “Living Room for Everyone” at Nanchichang Apartments in Taipei”と題し、台北市の南機場アパートメントへのフィールドワークを通じて、住民によって作られる社交空間について論じた。アパートメントでは、経済状況や生活環境の変化により、住民が集う共有空間(みんなのリビングルーム)が流動型から固定型に変化したことを指摘した。

白佐立氏

近代日本文学の英訳について専門に研究する片岡真伊氏(EAA特任研究員)は、“Genius Loci Reimagined: On the Problems of Translating Senses of Place in Japanese Literature””として、土地の記憶という問題を考える上で重要な「ゲニウス・ロキ」という概念を取り上げた。日本文学の翻訳における「地名」の意味と、それが翻訳にどのような影響を与えるかを分析した。

片岡真伊氏

宋の学校に関する研究を専門とする梅村尚樹氏(北海道大学)は、 “Local government schools and academies(書院) in Song China”として報告を行った。宋代では、王安石による科挙改革によって、学校制度が官僚採用における主流となり、地方社会においては、学校と書院とが補完関係にあったことを指摘した。

梅村尚樹氏

中国思想史を専門とする田中有紀氏(東京大学)は “From the Common and Public Space to the Official Space: Forms and Spirits of Ritual in Local Societies in Ancient China”と題し、地方社会というコモンスペースが儒者にとって人間関係の基礎を築く場であったことを示し、プライベートな空間とパブリックな空間の間で、孔子がどのようにふるまったかについて考察した。

田中有紀氏

開発学が専門の汪牧耘氏(東京大学)は“Common Space between Value and Life: A Case Study of (Re)evaluating the Culture and History of Shimenkan, China”と題して報告した。中国・石門坎という地域の文化や歴史が様々な人、様々な文脈によって再評価されるプロセスから、コモンスペースを形成する上で気を付けるべきことについて論じた。

汪牧耘氏

各報告と議論から浮き上がってきたのは、コモンスペースの持つ「開放性」と「閉鎖性」という相反する2つの性質である。まずサーギル氏は、民間伝承の開放性と閉鎖性について論じ、白氏はプライベートな空間が保たれているからこそ、「みんなのリビングルーム」が実現できると述べた。片岡氏の報告からは、作家や翻訳者が、文学作品における「地名」の閉鎖性をよく理解した上で、文学を世界に開こうと努めたことがわかった。

また、理想的なコモンスペースのイメージを論じる上で、それが誰にとってのイメージなのかに注意する必要がある。梅村氏と田中氏は、支配者の立場から見た地域社会や共有空間のイメージについて紹介した。汪氏は、ある地域社会で何を重視するかは立場によって異なり、異なる価値観を知ることで、自分の視点を相対化できるかもしれないと提案する。

報告:田中有紀(東洋文化研究所)