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2023.03.12

【報告】シリーズ講演・討論「東洋美学の生成と進行」第二回

2023年2月10日、シリーズ講演・討論「東洋美学の生成と進行」の第二回「中国古代の環境美学の思想体系」が開催された。講演者は陳望衡氏(中国武漢大学哲学学院)教授)、コメンテーターは青田麻未氏(群馬県立女子大学・講師)、通訳・司会は本ブログ報告者の丁乙(EAA特任研究員)であった。

(講演者:陳望衡氏)

(コメンテーター:青田麻未氏)

(企画者・司会者・通訳:丁乙)

陳氏は中国古代の環境美学について俯瞰的な見取り図を与えようとしており、主に四つの課題を扱った。すなわち「中国古代の環境美学の基礎が農業文明である」こと、「天地・山水・山河・家国・仙境」といった概念の系統、そして「家国心情」(中国語「家国情懐」)と「準生態意識」という具体的問題である。講演に対して青田氏は、英米系の議論を参照しながら、いわば逆照射によって中国古代の環境美学の独自性を浮き彫りにした。

陳氏によれば、中国の環境美学の本質として「家園感」があり、これには「家居」(家に居住すること)と「国居」(国に居住すること)の二つのレベルがあるという。また家居に関しては、「安居」「和居」「雅居」「楽居」という居住の質の違いが論じられている。この論点、すなわち居住する場所というよりも、居住の質が注目されている点は、中国環境美学に特徴的な考え方であるかもしれないと青田氏は指摘した。その理由は、英米系の議論は自然環境から人間環境(田園や都市など)へと議論対象が拡大していったためか、議論対象となる場所の種類が定められ、それを前提として議論が進むことが一般的であるからである。さらに青田氏は、講演で検討された隠士文化に由来する雅居には、居住の質の問題だけではなく、居住する場所の問題も入り込んでいることに注目した。雅居とは、官僚が住まう場所は風景があまりよいものとは言えないため、郊外の風景優美な場所に別荘を持つことで理想的な生活スタイルを築くことである。青田氏によれば、この図式のもとでは、都=労働の場、郊外=文化活動の場という分化が成立しているという。生活の場の違いに起因する事柄が中国環境美学をさらに考察する手がかりとして提起された。

環境美学は20世紀に西洋で誕生した美学の一分野であり、東洋での発展はまだ十分ではない。今回のイベントでは、中国環境美学と日本環境美学の代表的な研究者が対話することによって、西洋という参照系のもとで東洋の独自性のみならず、東洋内部のさらなる詳細な相違と関連について多くの示唆を得た。

 

報告者:丁乙(EAA特任研究員)