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2023.02.28

【報告】崎濱紗奈『伊波普猷の政治と哲学』公開合評会

2023131日、101号館セミナールームにて、拙著『伊波普猷の政治と哲学——日琉同祖論再読』(法政大学出版局、2022年)の公開合評会(東京大学グローバル地域研究機構・東アジア藝文書院共催)が開催された。伊達聖伸氏(総合文化研究科教授)の司会のもと、小松寛氏(成蹊大学アジア太平洋研究センター主任研究員)および金景彩氏(慶應義塾大学外国語教育研究センター助教)が評者として登壇した。これに対し、筆者(崎濱紗奈:EAA特任助教)が応答を行った。

崎濱紗奈『伊波普猷の政治と哲学——日琉同祖論再読』(法政大学出版局、2022年)

小松氏・金氏は、筆者が大学院に進学した当初からお付き合い頂いている、貴重な先輩であり友人である。小松氏は社会学や政治学を方法論とした沖縄研究、金氏は植民地期・解放期朝鮮文学をご専門としており、それぞれの見地から的確かつ鋭いご批評を頂いた。お二人とも大変ご多忙にもかかわらず、貴重なお時間を割いて丹念に拙著を読んでくださったことが、コメントからひしひしと伝わった。


(左から順に、小松寛氏、崎濱紗奈、金景彩氏、伊達聖伸氏)

小松氏は、拙著の概要について丁寧に整理くださった上で、「倫理」と「政治」のせめぎ合いや、「政治的主体」と「戦略的本質主義」との異同、また、伊波普猷における「脱構築」の問題をご指摘くださった。併せて、現実政治における諸問題についても議論を広げてくださった。為政者が「沖縄問題」に関わる際の態度について、拙著では、「沖縄」を「他者」として遠ざけるために「寄り添い」という方法が採用されてきたことを批判したが、現状はその「寄り添い」すら行われていないことがむしろ問題なのではないか、という小松氏からの指摘は、昨今の情況を考える上で重要な指摘であった。

金氏は、資本主義/他者/女/レトリック/倫理という、5つの切り口から、オーディエンスを圧倒させる批評を行った。中でも、次の2つの指摘は、拙著の主張の核心にかかわる重要な批判であった。フランスの哲学者であるジャック・ランシエールの議論に基づき、拙著では「分け前なき者の分け前」を「政治」との関わりで問題化したが、もし「分け前」が与えられたとき、「政治」は消滅し、「政治哲学」に転化(転落)するのだろうか。「沖縄」に並ぶ「帝国日本」の他者として、「朝鮮」「アイヌ」「台湾」と列挙していくことは、「他者」そのものをナショナルな次元で語ってしまうことにはならないか。言い換えれば、特権化された「他者」を召喚してしまいかねないのではないか。

真正面から向き合ってくださったお二人に、こちらも全身全霊で応答した。司会の伊達氏は、この度の合評会は長年の信頼関係と友情が基礎にあるからこその真剣勝負の場であった、と評してくださったが、まさにその通りであったと思う。日々の業務やご研究でご多忙であるにもかかわらず、言葉の剣を研いでくださったこと、また、その剣を真正面から振り下ろして拙著を切り開いてくださったことを、お二人に心から感謝申し上げたい。また、このような場を設定してくださった伊達氏、GSIキャラバン「「小国」の経験から普遍を問いなおす」のメンバーの皆さま、そしてEAAの先生方と同僚に、心から感謝申し上げたい。

報告者:崎濱紗奈(EAA特任助教)
撮影者:立石はな(EAA特任研究員)・丁乙(EAA特任研究員)