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2022.11.04

【報告】「現代中国の思想状況を知る」シリーズ第3回:「普遍」と「特殊」--グローバル化する中国の文化政治

 2022年1028日(金)、「現代中国の思想状況を知る」シリーズ第3回がZOOMにて開催された。本シリーズは中国語圏で活躍する、もしくは中国語で著述活動を行う学者たちとの対話を通じて、今日の中国の思想状況を知り、世界の未来に対する想像を広げる試みである。今回は中国文学研究者の張旭東氏(ニューヨーク大学)を講演者に迎え、氏の中国語著書『全球化时代的文化认同——西方普遍主义话语的历史反思』(上海人民出版社、2021年。初版:北京大学出版社、2005年)を踏まえ、「『普遍』と『特殊』:グローバル化する中国の文化政治」という主題をめぐって議論が交わされた。本シリーズの企画者である石井剛氏(EAA副院長)が司会を務めた。
 まず、石井氏は現代中国を考えるに際して張氏の著書がもつ重要性を確認したうえ、本書でしばしば言及される李沢厚(1930-2021)のカント研究と現代中国の文脈との関連性、文化の自立性と排他性、「民主」の二つの側面について問題を提起した。張氏の講演はそれに応答する形で展開された。

 張氏によれば、一つの全体かのように見える西洋近代に掲げられた普遍性を自明で不変なものではなく、むしろ普遍性自体の言説構造を歴史のなかでつねに変化していくものとして捉え直すことこそが本書の狙いである。ただ、もともと英語での講義録に基づいた本書の内容が中国語で語り直されると、その問題機制に大きな変化が生じたようだ。つまりそれが「普遍と特殊」というテーマに結びつき、やがて80年代以来の中国におけるいわゆる「古今中西」をめぐる討論に接続したという。張氏の見方では、80年代の中国にとって、李沢厚の『批判哲学的批判』(1979)はカントを語ることで80年代から再出発するための思想的な基礎を築こうとしたものとして、大きな意義をもっている。

 文化の問題については、張氏が「文化政治」という概念を用いて、文化は脱政治化の傾向を有するにもかかわらず、それが経済活動、社会組織、日常生活において生産されている以上、政治的なものに転化する可能性があると論じた。そして文化間・民族間の衝突を超克するものとして一部の論者に提起された「天下」概念は、あくまで特定地域の個別的具体的な経験の自己伸張であり、その言説はつねに社会自体の(カント的な意味での)理性能力に制約されているはずだと指摘した。民主主義の両面性に関して、張氏は民主には複数の側面や形態があるにせよ、政治が現実における分断と対立を認知してそれに反応することができるかどうかは大事だとした。張氏からすれば、以上の諸問題は「普遍と特殊」を逆説にみちた、多元的で開かれたトピックとして再把握してはじめてアプローチできるのである。
 その後、王欽氏(東京大学)、柳幹康氏(東京大学)、鈴木将久氏(東京大学)も張氏の議論に対して各自の見解を述べた。

報告:郭馳洋(EAA特任研究員)