2022年10月18日(火)、第1回EAA「戦間期思想史を語る会」は対面とオンラインのハイブリッドで開催された。本研究会は20世紀の第一次世界大戦と第二次世界大戦の間という時期(その前後の時代も含めて)に焦点をあてて、当時の東アジアないし世界諸地域の思想・言論を取り上げることによって、地域・ジャンルを横断する普遍的な問いを練り上げ、新しい学問を構築することを目指している。具体的には毎回一人のメンバーが事前に指定したテクストを踏まえて提題を行い、その後参加者全員で議論する、という形で行うことになっている。今後は回を重ねたうえで、それまでの議論を総合して改めてメンバー間で問題意識を共有し、新たなテーマを提起する予定である。
第1回では郭馳洋(EAA特任研究員)が提題者を務め、鈴木貞美『近代の超克:その戦前・戦中・戦後』(作品社、2015年)の序章・第1〜3章・第7章、坂元ひろ子『中国近代の思想文化史』(岩波書店、2016年)の第2章について発表した。郭は鈴木著における「近代の超克」の国際性、ヨーロッパと日本での生命原理主義(vitalism)とマルクス主義という二大潮流、エネルギー概念の重要性などに関する議論を整理しながら、坂元著で紹介される民国期中国における東西文化論争、ベルクソンブーム、ロシアへの関心に言及した。そして植民地・半植民地における「近代の超克」志向、「近代の超克」と農本主義の関係、ナショナリズムとグローバル資本主義の逆説的な結びつきについて問題を提起した。
その後の討論では、高原智史氏(東京大学)は生命原理主義における「生命」(およびそれに通じる「元気」)概念について、法によって保障される「平等」との齟齬を指摘した。閔東曄氏(東京大学)は「近代の超克」の代表的な論者三木清の東亜協同体論を取り上げ、そこにおける民族・植民地の位置づけにある問題を指摘した。髙山花子氏(EAA特任助教)はボードレールの美術批評における「モデルニテ」(modernité)概念を紹介しつつ、近代中国における「モダン」概念や都市生活について質問した。陳希氏(EAA特任研究員)は内藤湖南の唐宋変革論に言及して中国「近代」の捉え方、プログラムとしての「近代」の性格について述べた。崎濱紗奈氏(EAA特任助教)は丸山眞男とハルートゥニアンとの「近代」理解の違いに着目して、各地域における「近代」の普遍性と固有性に関する問題を提起した。中国美学を専門とする丁乙氏(EAA特任研究員)は中国の文脈における「近代」と「現代」という二つの概念の複雑性を指摘した。小俣智史氏(早稲田大学)は19世紀末のロシア知識人(トルストイやドストエフスキー)における西欧的近代への超克志向と「ロシア精神」への追求、ロシアにとっての西洋近代の外来的性格について述べた。宮田晃碩氏(東京大学)は石牟礼道子における「近代」への呪い、一般概念化しがちな「近代」に対して個々人の感覚の重要性を強調した。
第1回の研究会は各参加者の関心の最大公約数ともいえる「近代」「近代の超克」を共通の話題として、複数な視点による多彩な議論が交わされた。次回以降は論点のさらなる具体化を目指していく。
報告:郭馳洋(EAA特任研究員)