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2022.04.13

EAAワークショップ「政府と与党の関係における日韓比較——『立法前協議の比較政治——与党内不一致と日韓の制度』(木鐸社、2 0 2 1年)を手がかりにして」

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2022年3月28日、EAAワークショップ「政府と与党の関係における日韓比較——『立法前協議の比較政治——与党内不一致と日韓の制度』(木鐸社、2 0 2 1年)を手がかりにして」がZoomで開催された。3月に韓国の大統領選挙が行われたが、この節目に改めて日本と韓国の政治システムについて考える時間を持った。昨年『立法前協議の比較政治――与党内不一致と日韓の制度』を木鐸社にて刊行した朴志善氏(岡山大学)をお招きして議論を進める手がかりを提供していただき、濱本真輔氏(大阪大学)に日本の事例の紹介と討論をお願いした。

朴志善氏(岡山大学)

日本と韓国の政治システムはどのように異なるのか。議院内閣制と大統領制の違いから発生する政府と与党の関係はどのようなものであるのか。また、それは国家運営や政策過程においてどのように影響を与えるのか。朴氏は上記の大きな問いを紐解くために、「立法前協議」をめぐる政府と与党の関係に焦点を合わせ、分析・説明した。すなわち、議院内閣制と大統領制という異なる執政制度を持っている両国であるが、立法前の協議(政府と与党が法律案や予算案を議会に提出される前にその内容を協議する過程を規定する制度、日本では事前審査制、韓国では党政協議)という類似した制度がある点に着目して、その制度の形成・変化・持続を説明する要因を明らかにし、日韓での立法前協議における特徴を指摘した。

まず、朴氏は立法前協議が、どの「政府アクターのレベル」での協議なのかによって集権型か分権型か、また与党がどこまで関与できるのかによって政府中心型か与党中心型かに分類されるとし、日本の場合は分権・与党中心型、韓国の場合、集権・政府中心型という特徴を帯びていたと分析した。そして次第に、それが集権・政府中心型へ、分権・与党中心型へそれぞれ変化していったと指摘した。こうした違いと変化を生み出した要因として、朴氏は「与党内不一致」をめぐる執政制度と選挙制度の組み合わせを取り上げた。つまり、執政制度(議院内閣制か大統領制か)と選挙制度(候補者本位か政党本位か)はそれぞれ執政長官(首相や大統領)と有力議員の間、また党幹部(幹事長、党代表)と一般議員の間の関係において執政長官と党幹部にリソース(立法への参加、公認、人事など)を与え、与党内不一致の抑制に影響を及ぼす。朴氏によると、日本の場合は執政制度と選挙制度が執政長官と与党幹部のリソースを拡大するように変化し(たとえば、内閣府設置などの中央省庁改革と小選挙区比例代表並立制)、立法前協議が政府中心・集権化に変化した一方で、韓国の場合はそれが執政長官と与党幹部のリソースを縮小するように変化し(たとえば、大統領直接選挙を含めた憲法改正と党内民主化)、分権・与党中心型に変化した。

濱本真輔氏(大阪大学)

朴氏の報告を受けて濱本真輔氏による討論が行われた。濱本氏は立法前協議をめぐる政府与党関係の研究の重要性を整理した。例えば、議院内閣制諸国で議会内での造反が増加し、議員の政党間移動が頻発になるという状態を背景に、政党の一体性が維持しにくくなっていることを指摘した。政党の一体性は、政権運営の安定化に不可欠であるが、何よりも有権者にとって政党の標榜する鮮明な争点に基づく争点投票や政党の業績に基づく業績投票に役立つという意味で重要である。こうした政党の一体性が失われると、代表制民主主義のサイクルの機能が低下していくと、濱本氏は指摘した。また濱本氏は、政府与党関係の研究が政党一体性や立法過程のメカニズムをより豊かに説明できると指摘した上で、日本の事前審査制は国会審議前の段階で活発に行われていることや、幅広い案件に非常に強い党議拘束がかかり、議員らはそれを受容しているという特徴を持つと述べた。

これらの議論を踏まえ、自民党の政務調査会の活動量が執政・選挙制度後にも依然として維持されている点や、日本の事前審査制に規定される他の制度的要因(議会制度など)の可能性、また、立法前協議の結果を議員が遵守するように促す韓国の仕組みやメカニズムについての論点が濱本氏から提供された。

左から朴志善氏(岡山大学)、濱本真輔氏(大阪大学)、具裕珍(報告者:EAA特任助教)

最後に、参加された内山融氏(東京大学)からもいくつか重要な論点が挙げられた。事前審査制などをめぐり、近年執政長官や党幹部のリソースの拡大により集権化が見られるが、造反を防ぐどころか造反が増えていることはどのように説明できるのか、「制度」の定義をめぐる議論、日韓の比較において有効なリサーチデザイン(most similar cases or most different cases as a case selection strategy)はどのようなものか、 日本は集権・政府中心型に、韓国は分権・与党中心型に進んでいるとの特徴が見られるが、絶対値としてそれぞれどの程度のものか、などが議論された。構成員のさまざまな研究関心を取り上げ議論する場を提供しているEAA内で、現実政治という可変的な研究対象をめぐる仕組みとプラクシスを考える有意義な時間であった。

報告者:具裕珍(EAA特任助教)