2022年3月16日、東京大学GSIキャラバン・プロジェクト「「小国」の経験から普遍を問いなおす」ワークショップ“Small States in International Affairs since the End of the Cold War”が開催された。本キャラバンでは、過去4回のワークショップ・シンポジウムを重ねてきた(詳しくは過去のイベント一覧を参照されたい)。5回目となる今回は、O.A.ウェスタッド氏(イェール大学歴史学部)をお招きした。早朝8時からの開始にもかかわらず、40名以上の参加者が集った。
18世紀以降のグローバル・ヒストリーをご専門とするウェスタッド氏はこれまで、冷戦期の中ソ関係および米ソ関係、また、冷戦期におけるアジア・アフリカ・カリブ海地域等におけるポストコロニアルな状況など、実に多岐にわたる研究を展開してきた。氏の邦訳著書である『冷戦——ワールド・ヒストリー』(上・下巻、岩波書店、2020年)の訳者の一人である小川浩之氏(東京大学総合文化研究科)が本ワークショップを企画し、当日司会進行を務めた。
講演の中でウェスタッド氏が焦点を当てたのは、冷戦期とポスト冷戦期における「権力(power)」のあり方の変容である。冷戦期においては米国やソ連といった大国の「普遍的権力(universal power)」のもと「主権(sovereignty)」が制限されていたが、冷戦の崩壊により世界は「多極的世界(Multi-polar world)」へと変容を遂げた。こうした状況下においては、小国(small states)は自国の防衛を自ら担わなければならず、必然的に主権が強化される。このような状況下における小国の運命は、小国間の連合を形成し集合的権力を再構成できるのか、また、大国との関係性の結び直しがどのように可能となるか、といった複数の条件に左右される。
講演に続くディスカッションでは、キャラバン主宰者の伊達聖伸氏、キャラバンメンバーの張政遠氏、鶴見太郎氏、土屋和代氏(いずれも東京大学総合文化研究科)をはじめ、フロアからの質問が相次いだ。“Small nation”と“small states”の違いや、ウェスタッド氏が提唱する“righteous nation”という概念の詳細や、明朝・清朝における朝貢貿易・冊封体制の有効性、さらには昨今のウクライナ情勢など、さまざまなトピックに関する議論が交わされた。印象深かったのは、冷戦時のような状況に世界は逆戻りするだろうか、という問いに対して、ウェスタッド氏は否と答え、むしろ、現在の状況は19世紀後半から20世紀初頭の状況に近似している、と答えたことだ。
図らずも本キャラバンが主題とする「小国」は、時勢を反映した最先端のテーマとなった。今後ますます不透明化する世界を見通し、記述するために、ウェスタッド氏が実践しているようなグローバル・ヒストリーという方法はますます重要性となるだろう。
報告者:崎濱紗奈(EAA特任研究員)