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2021.07.29

【報告】「2021年紹興元培フォーラム」EAA分科会

2021717日(土)、中国浙江省紹興市人民政府と北京大学元培学院が主催する2021年紹興元培フォーラム「東アジアの文明とリベラルアーツ教育の視野」において、EAAは第6分科会を担当した。本フォーラムは716日〜18日の3日間にわたり、近代中国の著名な教育家であり北京大学校長も務めた蔡元培(1868-1940)の故郷、紹興市において行われた。国内参加者はすべて現地に参集したが、EAA側メンバーのCOVID-19パンデミック下での国際出張はかなわず、分科会はオンラインと対面のハイブリッド形式で開催された。分科会では田中有紀氏(東京大学)と韓笑氏(北京大学)が司会を務め、中島隆博氏(東大・EAA院長)、欧陽哲生氏(北京大)、田耕氏(北京大)、石井剛氏(東大・EAA副院長)、王利平氏(北京大)、王欽氏(東大)、張政遠氏(東大)、袁一丹氏(首都師範大学)、毛建衛氏(浙江工業職業技術学院)、柳幹康氏(東大)らが参加した。

 

 

中島氏による開会の挨拶のあと、分科会のセッション1「歴史の省察」が始まった。最初に発表した欧陽氏は20世紀前半から21世紀初期までの中国における中国近代思想史研究の潮流と特徴、および北京大学との関連を整理した。次に韓氏は北京大学における近代学術の営みを振り返りつつ、学際的研究と国際交流の新たな拠点として2016年に発足した北京大学人文社会科学研究院の活動を紹介した。

続いてのセッション2「文明の想像と創建」では、田氏が戦後アメリカにおける社会科学研究の変化について、シカゴ大学における学際的社会科学の再編と社会民族誌の展開を中心に述べた。石井氏は東京大学東アジア藝文書院(EAA)で行われている、30年後の世界を想像するための新しいリベラルアーツ教育の実践を紹介し、東アジアという多言語的現場で哲学する意義を語った。

セッション3「教育、哲学、文学」において、王利平氏は1894年から1904年の間にシカゴ大学で教鞭をとったデューイ(John Dewey, 1859-1952)による教育学科と実験学校の創設、およびworkの能動性を重んじた彼の教育思想の展開について述べた。王欽氏は教育の「原場面」をめぐるランシエール(Jacques Rancière)と柄谷行人の議論を手掛かりに、教育現場に必然的に内在する根源的な文学性を指摘した。

コーヒーブレークのあと、セッション4「教養教育の複眼的視座」が始まった。張氏は自身の香港中文大学での学習・教育経験と東京大学での教育経験に基づき、両大学におけるリベラルアーツのカリキュラムを説明したうえで、EAAのコア科目「東アジア教養学理論」と「東アジア教養学演習」の具体的な授業計画を示した。袁氏は20世紀前半の輔仁大学における国文教育を取り上げ、「小通」つまり国文を正しく運用する作文能力の養成に力を入れた教員たちの取り組みを紹介した。最後に毛氏は高等専門学校での教育理念と陽明学における実学的傾向との思想的連関について論じた。

 

 

総合討論では、教育の文学性もしくは紀律の自発的形成を保証する制度の必要性、仏教の修行における自発性と他律性の相剋、liberal educationの目標および異なる訳語によるニュアンスの違い、リベラルアーツ教育にとっての「東アジア文明」の意義、国文教育の可能性、パンデミックと反グローバリズムの時代における人間・国家・世界の位置付け、教育における哲学的「エロス」の重要性などが話題になり、盛んな議論が行われた。

なお、本分科会の発言記録は後日EAAのウェブサイトで公開するほか、ブックレットに収めて刊行する予定である。

(北京大学元培学院側による中国語報告文はこちらからご覧いただけます。)

 

                                報告:郭馳洋(EAA特任研究員)