2020年11月6日(金)、第6回「UTokyo-PKU Joint Course」が開講された。前回に続き欧陽哲生氏(北京大学歴史系教授)を講師にお迎えした。主題となったのは近代中国の思想家であり、南京臨時政府の初代教育総長や、北京大学の学長などを歴任した蔡元培(1868-1940)である。
北京大学の歴史は1898年に京師大学堂が設立されたことで始まるが、「兼容并包」などを理念として掲げる現在の北京大学は、蔡元培によって行われた大学改革に端を発している。蔡元培は当時の新文化運動の潮流の中で、中国の学問状況を大きく転換させた人物であると考えられており、現在でも中国の学問を牽引する大学の一つである北京大学にとって、蔡元培は常に立ち返るべき偉人として存在感を放っている。
その影響もあり、学生からの質問は北京大学や学問のあり方についてのものが多く見られた。大学運営の独立性、教授が果たすべき役割、大学教育における経学の位置付け、儒学倫理の重要性、美学と宗教の関係。いずれも蔡元培が持ち続けた問題意識に関係するものであり、欧陽氏は北京大学の現役の教授として、そして中国近代の研究者として、学生の質問に真摯に答えた。その内容を簡潔にまとめるならば、世界情勢と大学の関係という点に収束させることができる。蔡元培が当時の情勢の中で大学を考えた様に、今日においても様々な世界情勢への対応(対応の拒否も含む)が求められ、蔡元培の理念と現今の状況の狭間で柔軟に思考を展開しなければならない。蔡元培が伝統的な学問体系に反対の立場をとりつつも、同時に儒学の人文主義の可能性も信じていたように、彼もまた新旧の狭間で思考と実践を展開していたのである。蔡元培の実践を尊重しながら為された質疑応答によって、今後の大学のあり方を考える上で非常に示唆的な講義となった。
報告者:建部良平(EAAリサーチ・アシスタント)