2020年10月30日(金)、第5回「UTokyo-PKU Joint Course」が開講された。次回(第6回)との二回構成で、中国近代思想史を専門とする欧陽哲生氏(北京大学歴史系教授)を講師にお迎えした。主題となったのは近代中国の思想家で、トマス・ハクスリーの『進化と倫理』や、アダム・スミスの『諸国民の富』を翻訳した人物として有名な厳復(1854−1921)である。
学生の質問は厳復の進化論への理解に関するものが多く、彼の翻訳によってハクスリーの社会進化主義が如何に当時の中国で受容されたのか、形を変えながら繰り返し問われた。欧陽氏の応答によれば、厳復は必ずしも社会進化論を積極的に提唱していたわけではない。伝統的な学問が崩れ、国際情勢も刻一刻と変化している中で、如何に新しい形の社会倫理を構想するかということが、彼の喫緊の課題であった。厳復は翻訳を通して如何に当時の世界に適合していこうとしたのか。翻訳に桐城派古文を用いたことも含めて、厳復のテクストを読解する必要があると欧陽氏は主張した。
また質問では、日本の福沢諭吉との比較可能性に言及したものもあった。近代期における東アジアの知識人の活動として比較できる点が多く、既に多くの論考がこれを論じているが、いずれにせよ当時の様々な試みを現在の文脈で再読することの必要性が説かれた。
次回の講義では、厳復よりも少し後に活躍した蔡元培(1868−1940)が取り扱われる。現在の北京大学の基礎を作った人物が如何に解釈され、学生たちはどのような質問をぶつけるのか。非常に楽しみである。
報告者:建部良平(EAAリサーチ・アシスタント)
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【活動報告】第1回『天下的当代性』を読む会