EAAが開講する「東アジア教養学」プログラムでは2020年度Aセメスターより4名の学生を北京大学からオンラインで受け入れる。4人の学生は必修ゼミ授業「東アジア教養学理論」、「東アジア教養学演習」ほかプログラム科目を履修して、他の学生たちとともにテクストを読み、議論を行っていく。授業開講を見据えたアイスブレイクとして、同時に学生間のネットワーキングの機会の提供のため、2020年9月18日、「学生交流会」の機会をセッティングした。キャンパスに対面で集った学生とオンラインでつながる学生が交流するハイブリッド方式のセッティングである。
冒頭、石井剛EAA副院長よりスタッフ側からこの機会を設けた背景について説明があった後、進行を学生へ引き継いで交流タイムとなった。「東アジア教養学」プログラムは日中英の3言語トライリンガルプログラムであるが、トライリンガルゆえに生じる出来事もそこにはある。どの言語を中心に話すか、に戸惑うのだ。会の進行を快く引き受けてくれた学生たちも戸惑いがあったようで、当初は英語での司会進行を行っていた。しかし10-20分もするうちにいくぶんと場の雰囲気も開けてきた。各々の自己紹介を交えながら、時に自主的なゼミナール、あるいはサロンのように自由闊達に人文学的・社会科学的な議論が展開されるようになっていった。
突然にして開けたこの場の面白さは、いずれの学生も英語・中国語・日本語を適宜にスイッチングしながら意見を交わしていたことであろう。これをあるいはピジン的な過渡の状態、「中途半端な」(ダブル/トリプル・リミテッド)状態であると僻目に見る人もあるかもしれない。けれども自身立ち会っていた報告者はそのようには思われなかった。もとより3つの言語で語りあう行為そのものに、スイッチングによる絶え間ない翻訳を行う必然性が伴っている。たとえば「ポストコロナの建築(なるものの概念)はどうなっていくか」をめぐった議論では、日本語ではあまり用いられない漢語「営建」に関して「建築」「architecture」「construction」を交えながら、学生同士で丁寧な概念のすり合わせが行われていた。リベラルアーツの知的な土台あるがゆえに、3言語を交えた概念のすり合わせが可能となる。トライリンガル・リベラルアーツ教育の新たなる試みには、新しい知的経験の機会がふんだんに秘められている。
交流会は当初の予定を超えて2時間にわたって続いたが、もちろん高度に学問的な議論だけをしていたわけではない。お互いの旅の経験や趣味の話、各自のさまざまな思い入れについても話が弾んだ。とくにこの日は4年生の参加学生もいたため、ときに迷いを含んだ将来の展望もしばしば話題となった。卒業後一旦社会に出たうえで、いずれ大学院に戻り、ふたたび社会に出る、というような将来像を語ってくれた学生もいた。今はまだ小さいこの知のコミュニティが、やがて世代も国境も超えてつながりあう知のソサイエティへと成長していくことを願っている。
報告者:前野清太朗(EAA特任助教)