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2020.09.23

第1回「東アジア音楽思想と術数」研究会 開催報告

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9月14日(月)13時より、第1回「東アジア音楽思想と術数」研究会(オンライン)が行われた。この研究会は、日中韓の音楽史を知るための主要テキストを講読し、その音楽思想の背後にある数の調和思想について考察することを目的としている。東アジア芸文書院と科研費(挑戦的研究(開拓))「機械学習を用いた東アジア数理調和思想の実証的研究と共生倫理の検討」との共同開催である。参加者は、伊東乾氏(情報学環)、稗田浩雄氏(未来工学研究所、東洋琴学研究所)、李珍咏氏(学際情報学府修士2年)、陳施佳氏(学際情報学府研究生)のほか、本ブログの報告者・田中有紀(EAA、東洋文化研究所)である。

今回の研究会では、『楽学軌範』をとりあげた。まず李珍咏氏が、韓国音楽史における『楽学軌範』の位置付けについて紹介した。朝鮮時代前期になると、礼楽思想を基盤に、新しい君主や王朝をたたえる音楽が模索されるようになる。第九代成宗の時代には、成俔を中心に、韓国最初の音楽理論書である『楽学軌範』が編纂された。全九巻から成る『楽学軌範』は、音楽を雅楽・唐楽・郷楽に分け、音律論や制度、楽器の歴史や、楽を行う際に用いる衣装などを整理したものである。韓国音楽史を知るためには必須の文献であるといえよう。日本の蓬左文庫に所蔵されているテキストが現存する最も古い版本だと考えられ、影印本が出版されている。続いて田中有紀が、『楽学軌範』の構成について説明し、成宗期の国楽整理について簡単に紹介した。世宗八年以降、中国系雅楽と雅楽器の整理が行われ始め、成宗八年には、鄭麒趾が『律呂新書』の学習を命じられ、朱子学の音楽理論書の本格的な受容が行われた。また、高麗以来の楽歌や楽器の数多くが改変され、『楽学軌範』が編纂された。

成宗期の音楽への取り組みは、中国伝来の音楽とどのように向き合い、いかにして「自分たちの音楽を作っていくか」という模索であると言えよう。本研究会では今後数回にわたり『楽学軌範』を講読する中で、中国雅楽の伝統を着実にふまえつつも、一方で自分たちの伝統と向き合い、彼らがどのようにして、新しい「国楽」を作ろうとしたのかについて、様々な角度から分析していきたいと考えている。

報告者:田中有紀(東洋文化研究所准教授)