ブログ
2020.04.12

2020 Sセメスター 第1回学術フロンティア講義

2020年4月10日(金)、今年度第一回の学術フロンティア講義「30年後の世界へ――「世界」と「人間」の未来を共に考える」がオンライン会議アプリ「Zoom」上で開かれた。初回となる今回は参加学生に向けてのオリエンテーションである。

本講義コーディネーターでもある石井剛氏(EAA副院長)からの簡単なあいさつに続けて、今年度から新しいEAA院長へ就任した中島隆博氏からのメッセージが伝えられた。中島氏は、西洋近代中心の学術には、光とともに影があったとし、その潮流の中で進められた初期のグローバリゼーションは、第一次世界大戦やスペイン風邪に応じて変化し、ついには日本も含め全体主義化した国が現れ、世界は分断されてしまったとした。それを繰り返さないためには、若い人と新しい言葉、新しい概念を作るしかない、それを通じて西洋近代の限界を乗り越える。EAAは北京大の他、オーストラリア国立大学、ソウル国立大学、ニューヨーク大学、ボン大学と協定を結び、世界共通の課題に対応しようとしている。本講義の主な対象は学部生、とくに一年生だが、そのような若い人が30年後を切り開くはずで、その知のプラットフォームになりたい。何ができるかよりも、何を望むか。可能性を広げるだけでなく、それを超えて、どういう社会を望むかが問題であるとし、最後に「ようこそいらっしゃいました」として、話を終えた。

続いて石井氏から本講義の主宰部局である東アジア藝文書院(EAA)のロゴについて説明があった。まず、ロゴを画面に映して、「何に見えますか」と問い、学生から「家に見える」、「翼では?」、「のれん」、「本」、「栞」という意見が出たところで、石井氏から「原稿用紙の真ん中」や「本のページの折り目」には「魚尾」というものがある。東アジアでは、「魚尾」で本を綴じるという共通点があったと説明があった。またその下には、開かれた家があり、さらに下には土がある。「魚尾」が赤と青でできていること、それは北京大と東大のカラーであると共に、火と水をあらわしていることが言われ、「火と水の不可能な結婚」として中島氏から説明があった。
中島氏は、火と水とは、世界を構成する根源的なエレメントだとし、その二つがぶつかると何が起きるか、ということから世界を考えようとするものだとした。根本的なエレメントを考えるときに、思考が解き放たれる。もう一つのエレメントとして花が挙げられ、世阿弥の『風姿花伝』に言及があった。

加えて、石井氏から中国古典『淮南子』のテクストを引いて、エレメントとしての火と水について説明がなされた。「東アジア発の新しいリベラルアーツ」に話は移り、これから先の人類社会の変化につき、どういう世界に「なる」のかではなく、どういう世界を「つくる」のかが問われるとされた。そもそも「世界」とはなんだろうか。地球、宇宙、その外にも「世界」はあるだろう。どこからどこまでが「世界」であるのか。「人間」と「自然」、「機械」の区別はどうか。「技術」により、「人間」が「生まれる」、「死ぬ」ことの境界線があいまいになっている。いままさに、こうしてネット回線を通じて授業が行われているが、「人と人との間」としての「人間存在」はどう変わるだろうか、コミュニケーションはどうなるだろうか。食物を食べて、生きている人間は不可避的に「自然破壊」をしなければ生きていけないがそのことは変わらないだろうか。周囲の自然、環境との間にあって、成り立っている「人間」だが、そこにはハーモニーだけでなく、衝突もある。「人新世」についても言及があった。

最後は講義全体のスケジュールについての説明である。

第三回、4月24日は田辺明生氏。インドをフィールドとする文化人類学者で、「人新世時代の人間を問う――滅びゆく世界で生きるということ」という題。題目の提示は一月頃だったというが、奇しくもタイムリーな話題になってしまった。

第四回、5月1日は中島隆博氏。「世界哲学と東アジア」という題。関連して、中島氏から刊行中の『世界哲学史』(全八巻、ちくま新書)について、西洋近代にばかり閉じた学問としてではない「世界哲学」が構想されていると説明があった。石井氏からも、今の状況において、哲学、そして人文学は求められているとあった。

第五回、5月8日は武田将明氏。「小説の人類学――Gulliver’s Travelsを読む」という題。中島氏が「世界哲学」なら、武田氏からは「世界文学」が聞けるはず。カミュの『ペスト』がトレンドだが、武田氏は、デフォーの「ペストの記憶」の訳者でもある。

第六回、5月22日は羽田正氏。羽田氏は昨年度までEAA院長であった。「30年後のための世界史」という題。「世界史」をグローバルヒストリーとするか、ワールドヒストリーとするかが問題となるとされた。

第七回、5月29日は四本裕子氏。「脳科学の過去・現在・未来」という題。

第八回、6月5日は張政遠氏。「30年後の被災地、そして香港」という題。張氏は5月からEAAの専任教員となり、日本哲学が専門。東日本大震災の被災地と香港をつなげて論じる。

第九回、6月12日は橋本英樹氏。「医療・介護の未来」という題。人口減少社会となることで、社会はどう変わるか。「死ぬ」のが難しくなる時代になってどうなるか。中島氏から、「テンミニッツTV」(https://10mtv.jp/covid-19/)で、橋本氏が「新型コロナウイルスの克服」という講義をしていることが示された。

第十回、6月19日は伊達聖伸氏。「宗教的/世俗的 ディストピアとユマニスム」という題。「世界宗教学」についての話が聞けるとされたところで、中島氏から、それは「民族宗教」と対比されるところの「世界宗教」とは別だとの指摘があった。

第十一回、6月26日は石井剛氏。「「中国」と「世界」:どこにあるのか?」という題。

第十二回、7月3日は王欽氏。「Potentiality and Literature in the Era of Artificial Intelligence」という題。最近刊行された王氏の「Configurations of the Individual in Modern Chinese Literature」についても言及された。

第十三回、7月10日は國分功一郎氏と熊谷晋一郎氏。「中動態と当事者研究:仲間と責任の哲学」という題。対談形式。

最後に石井氏から、このようなストレスフルな毎日、肩肘張らずにこの授業の中で気晴らしを、中島氏からは、一日一回でも自分をゆるませる、リラックスさせる時間をもつこと、とのアドバイスがあり、この日の講義は終えられた。

報告者:高原智史(EAAリサーチ・アシスタント)