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2019.12.20

EAA/ IASA Seminar “The Writing of National History in the Early Period of Turkish Republic : Centering on Turkish History Thesis” 報告

2019年12月19日、東洋文化研究所第一会議室にて、東アジア藝文書院・東洋文化研究所共催のEAA/ IASAセミナーが開催された。講演者として、EAA招聘教授(北京大学歴史系副教授)の昝涛氏をお迎えした。モデレーター、コメンテーターを、それぞれ中島隆博氏(EAA副院長・東洋文化研究所教授)、秋葉淳氏(東洋文化研究所准教授)が務めた。

昝氏はトルコ近現代史を専門としており、近年はグローバル・ヒストリー的観点から、特にトルコ・中国関係に関する研究も行なっている。当日は“The Writing of National History in the Early Period of Turkish Republic : Centering on Turkish History Thesis”と題した発表を行なった。

発表では、トルコが近代国民国家として自らを規定する際、いかにしてナショナル・ヒストリーを構築してきたのか、そのプロセスが詳細に検討された。昝氏は、トルコにおけるナショナル・ヒストリー(トルコ史観=Turk Tarih Tezi=Turkish History Thesis)誕生の契機として、1933年に行われた、歴史学者・政治家による会議に注目した。その中心的人物となったのが、ムスタファ・ケマル・アタテュルクであった。トルコ建国の父として知られ、類稀なるリーダーとして君臨した彼は、自国史を書くという行為の重要性を熟知していた。巨大帝国であったオスマン帝国は、その支配下に多くの民族・宗教を含みこんだ多文化主義的空間であった。こうした前近代的な帝国の歴史を近代国民国家的語りの中に回収し、国家の輪郭を改めて設定することは、トルコの近代化、そしてトルコナショナリズムの構築にとって必要不可欠であった。

昝氏は、「トルコ史観=Turk Tarih Tezi」誕生の背景には、西洋諸国におけるトルコ表象が大きく影響を与えたことを指摘した。つまり、自己表象を構築しようとする際、必ず他者の目線がそこには必要とされるということである(裏を返せば、「西洋」もまた「東洋」という他者を必要としたということになる)。近代化を遂行しようと努力するトルコの知識人たちにとって、ヨーロッパ世界における歪で一方的なオリエンタルなトルコ表象は、耐え難いものであった。こうしたイメージに争い、自らの手によって自国史を描き直すことは、トルコにとっての悲願であった。また昝氏は、ムスタファ・ケマル・アタテュルクが、当時流行したH.G.ウェルズのThe Outline of Historyを愛読していたことに触れ、同書が彼に与えた影響についても指摘した。

西洋世界から一方的に与えられたイメージからの脱却を目指して編まれた自国史Türk Tarih Anahatlariには、中東諸国、地中海諸国と並んで、中国との関係についても多く語られている。 イメージはKaynak Yayınları社のウェブサイトより転載:https://www.kaynakyayinlari.com/turk-tarihinin-ana-hatlari-p363234.html

 

昝氏の発表を受けて、秋葉氏は、日本におけるトルコ研究の状況を紹介し、特に、「トルコ史観=Turk Tarih Tezi」に関する研究として、永田雄三氏および小笠原弘幸氏の仕事を紹介した。また秋葉氏は、トルコの近代化がヨーロッパ近代を強く意識しながら遂行されたという昝氏の指摘を受けて、ツラニズム(Turanism:中央アジアを起源とする民族の団結を主張する言説)やアナトリア仮説(インド=ヨーロッパ語族の起源をアナトリアとする言説)についても言及した。

質疑応答では、小笠原弘幸氏(九州大学准教授)を始め、多くの参加者からコメント・質問が寄せられた。モデレーターを務めた中島氏によれば、中国におけるトルコ研究者は大変少ないという(秋葉氏によれば、日本はトルコ・アメリカに次いでトルコ研究が盛んな地域である)。トルコ同様、巨大帝国から近代国民国家への脱皮を図った経験を持つ中国において、トルコ研究が行われることの意義は大きいと言えよう。また、西洋からの目線を意識しつつ自己イメージを練り上げていった経験は、日本の近代化とも通じる。報告者自身は、トルコ研究については全く無知であるものの、非西洋世界における近代化、帝国と近代国民国家といったテーマは、自身の研究にも深く繋がっており、多くのインスピレーションを得ることができた。

報告者:崎濱紗奈(EAA特任研究員)