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2023.04.24

【報告】2023 Sセメスター 第3回学術フロンティア講義

2023年421日(金)、学術フロンティア講義「30年後の世界へ——空気はいかに価値化されるべきか」の第3回では、経済学を専門とする安田洋祐氏(大阪大学)が「資本主義と空気の価値〜市場・国家・社会的共通資本〜」と題して講義を行った。

従来、「コモンズの悲劇」を解決するには、コモンズを私有化させ、市場の「見えざる」手を機能させることと、国や自治体によって管理することの二つの道があると考えられてきた。その二つの道に加えて、安田氏は「社会的共通資本」、すなわち「シン・コモンズ」という第三の道を見出している。

その発想は、「コモンズの悲劇」の考え方がコモンズとオープンアクセスを混同してしまう、という宇沢弘文氏の批判に基づいている。経済学の教科書によれば、コモンズが排除できないが、競合してしまうため、悲劇に陥る。しかし、現実には、部分的に排除できて、部分的に競合する中間領域が存在している。安田氏は、この中間領域における新しいコモンズを「シン・コモンズ」と呼び、その真ん中の領域に「コモンズの悲劇」の解決策を求めようとした。これは、エリノア・オストロムが提唱した、政府でもなく、市場でもなく、自発的な組織によるコモンズの統治の概念とも共通性がみられる。また、安田氏はゲーム理論を通じて、社会的共通資本をと捉え直す可能性について提起した。

利用を排除できない大気問題に、この「シン・コモンズ」が適用できるかという質問に対して、安田氏は、現実に大気のようなグローバルコモンズをローカルな問題へと分化させることで、「シン・コモンズ」を適用できると答えた。さらに、問題がローカルに分化されると、発展途上国へ押し付けられる恐れがあるため、システム全体を根本的に改善すべきではないかという質問に対して、安田氏は、問題を解決するため、トップダウンの制度設計をすぐに考えがちだが、分散的な形で新たな組織を自由に創設する方がより現実的で有効であると答えた。

 

報告者:林子微(EAAリサーチ・アシスタント)

 

リアクション・ペーパーからの抜粋
(1)シン・コモンズの考えにあるような長期的関係をどのように築いていくのか。意思の疎通は難しく、国際的に見ると長期的な関係を築くことは難しい中で、国境を横断した問題に関して、国家という大きなアクターで見ずに人と人という単位で取り組むことで長期的な関係の構築が可能になるのではないか。(教養学部・3年)

(2)一つ大きな疑問だったのが、コモンズの概念を持ち出すとしても、それを「地域」に限定するのは何故なのか、「地域」に限定することで失われる視点があるのではないか、ということです。例えば、問題として提示なさっていた「人間関係の希薄化」は、DAOのようなシステムを想定しなかったとしても、やはり「地域」を単位とするべきではないような気がします。そこでオルタナティブとして提示されるのは、恐らく「地域」に縛られない「共同体」の像ですが、これは非常に不安定です。恐らく他の有効な手段と両立することはできないし(地域共同体であればグローバルコモンズの地域化のように行政で担える側面がある程度ある)そうである以上は「草の根」的な運動でしか実現され得ないという意味であまり期待はできないかもしれない。一方で、社会を変えてきたのはいつの時代でも「草の根」であったことを考えれば、ガバナンスによる解決を志向しがちな我々はそもそもその前提を疑うべきなのかもしれません。いずれにせよ、新しい形の社会の像は、そういった地理的関係に縛られない人間の繋がりによって構築されるというのが私の暫定解なのですが、もし敢えて「地域」に限定した理由があれば知りたいです。(教養学部・2年)